灰色のビルディングがいつだって四方から迫り来るコンクリートジャングルにおいて、帰る我が家は唯一心静かに落ち着けることができるまさにオアシス。
一人がけのソファに腰を下ろし、まぶたを閉じれば、目に浮かぶのは故郷のあの突き抜けるような青い空。二人で自転車を漕いで進んだ真っ直ぐな畦道、耳をすませば遠く聴こえる川のせせらぎ。
そうして辿り着いたダイエーの二階にあるゲームコーナー、ＵＦＯキャッチャーが大きくアームを開きぬいぐるみ目掛けて降下していくさまを真剣な眼差しで見守る君の横顔。
楽しかったことばかり思い出してしまう俺は、ずるい男なのかもしれないな。嗚呼、あいつは今もあの町で、誰かと元気でやっているのかなぁ。
そんな思い出にゆっくり浸るには、自分だけの静かな時間が確保できてこそ。隣室の生活音が聴こえてしまうようでは、おちおちあの頃にプレイバックもできませんよね。
ほんだらな、やっぱ自分で考えなあかんと思うねん。静かで快適な生活空間を欲しいって思うんやったら、自分でちゃんと調べなあかん。
胸に手をあててようく考えてみい。
せっかくやったら隣人の騒音に悩まされることもなく、どんだけ歌い騒ぎ踊り狂っても誰にも咎められない、そんな部屋で暮らしたいやん？ それってユートピアやん？
わしつねづね思うねんけど、たとえ賃貸やったとしても一人暮らししてる人間にとって自分の部屋っちゅーもんはな、自分の城やと思うねん。城がユートピアってめちゃめちゃステキやん？
そやから今日はお部屋選びの際に是非とも知っておきたい住宅構造の違いを、それはそれはキレイな防音の神様が紹介するんやで。
賃貸住宅に用いられる3つの住宅構造
賃貸住宅で用いられる住宅構造は大きく分けて次の三つ。
- 木造
- 鉄骨造
- 鉄筋コンクリート造
『三びきのやぎのがらがらどん』に例えるならば木造が小さいがらがらどん、鉄骨が中くらいのがらがらどん、そして鉄筋コンクリートがトロールを体当たりでバラバラにする大きながらがらどんと言ったところでしょうか。
がらがらどんという名前が既に騒音っぽいのでどれを選んでも防音など期待できないように思えてしまいますが、そんなことはありません。次にそれぞれの特徴を見ていきましょう。
木造
よーしお前ら、顔を伏せて目を閉じろ。先生絶対怒らないから正直に手を挙げるんだぞ、この中で樹木を知ってるやつがいたら手を挙げろ、よしみんな顔を上げていいぞー、全員手を挙げてくれて先生は嬉しい。そうだ、誰でも知ってる樹木、木造というのはつまるところ樹木で造った建物だ。
この中に「ごめん、樹木が邪魔で何を言ってるかよく聴こえないから、もっと大きな声で喋って」って経験をしたやつはいるかー？ いないだろう、つまりはそういうことだ。木造は音も振動も非常に伝わりやすい。隣人の生活音は聴こえてしまうもの、自分の生活音も隣人に聴こえてしまうもの、そういう前提をある程度覚悟して暮らすのが無難だ。
よーし、じゃあ先生ここですごく当たり前のことを言うから別にメモしなくていいぞ。こういう時はお互いに思いやる気持ちが大事だ。
鉄骨造
次に紹介するのは鉄骨造、特に男子は気をつけなくてはなりません。男子は「鉄」という言葉に過剰な期待を寄せてしまう傾向がありますが実はこの鉄骨造、防音性能は木造とそれほど変わりません。
ひのきのぼうからはがねのつるぎに持ち替えた時の感動を忘れられない男子各位は、ついつい鉄骨造の方が優れているのではないかと思ってしまいがちなので誤解のないよう気をつけてください。
もちろん防音以外の強度や、建物耐用年数という部分で比較すれば鉄骨造は木造よりも頑丈ですので、幼き日のはがねのつるぎを買った時のワクワク感を忘れるわけにはいかないヤンチャボーイはそちらを参照してください。
鉄骨造の建物に住む際は、隣人と互いに思いやる気持ちを大事にしましょう。
鉄筋コンクリート造
そして最後に紹介するのが鉄筋コンクリート造。
「ごめん、コンクリートが邪魔で何言っているかよく聴こえないからもっと大きな声で喋って」
コンクリートジャングルに生きるホモサピエンスならこんな経験、だれでも一度はありますよね。
コンクリートは防音性が高いため、木造や鉄骨造に比べ静かな生活空間が期待できます。さすが、大きながらがらどんに例えられるだけあって一番がらがらどんが聴こえにくいのです。
とは言っても、その度合いは壁の厚さにもよるため建物によってまちまち。歌って騒いだり、踊り狂ったり、音楽をかけながらエアギターを行う際には、もちろん隣人への配慮が必要となってきます。お互いに思いやる気持ちを大事にしましょう。
大事なのはお互いに思いやる気持ち
さて、今回は防音の観点からお部屋探しをする際の豆知識をご紹介しました。
卒業したら東京に行くってあいつに伝えた時のこと、今でもはっきりと覚えてる。どんな顔で言えばいいのかわからなくて、あいつの顔をまともに見ることなんて出来やしなかった。きっと傷つけたと思う。それでもあの時の俺にはどう言えばよかったのかどうしてもわからなかったんだ。あの時に伝えるべきだった言葉を探して、俺はこの街を彷徨っているのかもしれないな。
卒業式の時の先生の言葉の意味が、今なら少しだけわかる気がするな。
壁がどうだとか、住宅構造がどうだとか、そんなの関係ない。お互いに思いやる気持ちがきっと大事なんだ。