少しでも多く敷金に戻ってきて欲しい!そのために知っておくべき敷金の基礎知識

少しでも多く敷金に戻ってきて欲しい!そのために知っておくべき敷金の基礎知識

引っ越しのたびに「そう言えば、どれくらい返ってくるのかな……」と「敷金」のことを思い出す方も多いのではないでしょうか。

「敷金」とは、少々乱暴に言ってしまえば、あくまで「預けているお金」なので、原則として「全額返還」されるべきものです。ただし、返金額を大きくするためには、ちょっとしたコツが必要になります。このコツさえ知っていれば、「敷金を次の部屋で使用する新しいインテリアの購入予算として考える」なんてこともできるようになるかもしれません。本コラムでは、敷金を取り戻すためのコツはもちろん、敷金に関する基本的なところから詳しく解説していきます。

そもそも敷金ってなに?

敷金は、部屋を退去する際のクリーニング代だけでなく、家賃を滞納した場合の補填や、部屋を著しく汚してしまったり、壊してしまった際の修繕費などにも充てられます。
貸主は「部屋」という商品を貸すことで「家賃」という収入を得ているわけですから、万が一のときのための担保として、敷金を設定しているのです。

敷金返還の基本は普段からの心がけにある?

敷金を語るうえで頻出する用語として「原状回復義務」と「善管注意義務」があります。

原状回復義務とは?

原状回復義務と聞くと、借りた時の状態へ完璧に戻さないといけないような印象を受けます。ただ、実際は、「普段の生活のなかで、明らかに故意や過失があった場合の損耗は、借主負担で復旧してね。でも、通常の生活で劣化したり、摩耗した場合の修繕は、貸主が負担するよ」という内容です。

善管注意義務とは?

善管注意義務とは、簡単に言うと、「部屋を借りたなら、なるべく普段からキレイに使って返してね」ということです。つまり、普段からこまめに掃除をしておくなど、生活のなかで少し気を付けるだけで、敷金が返ってくる確率はぐっと上がります。

今からでも遅くない!敷金を返還してもらうために知っておきたいポイント

 少しでも多く敷金に戻ってきて欲しい!そのために知っておくべき敷金の基礎知識
「来週引っ越しなので、普段から気をつけろと今さら言われても遅い!」

そんな方が、敷金を少しでも多く返還してもらうためには、一体どうすれば良いのでしょうか。

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

ヒントになるのが、国土交通省が平成10年3月に定めた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下「ガイドライン」)です。
退去時における原状回復をめぐるトラブルを未然に防止するために、裁判例や取引の実務等を考慮のうえ、原状回復の費用負担のあり方について一般的な基準がまとめられています。
それでは、このガイドラインを紐解きながら、敷金についてのアレコレを見て行きましょう。

意外と知らない!月々の賃料には修繕費が含まれている

ガイドラインでは、いわゆる経年変化、「通常の使用」による損耗等の修繕費用は、月々の賃料に含まれるものとされています。
つまり、こちらに故意や過失、善管注意義務違反などがなければ、そもそも修繕費を支払う必要はないことになります。
ですが、「なるほど! じゃあ敷金は全額返ってくるんだ!」という早合点は禁物です。ここで問題になるのが「通常の使用」という非常に曖昧な文言なのです。

敷金が戻ってくる「通常の使用」の範囲とは?

ガイドラインでは、「通常の使用」の定義を明確にするために、以下の図のように事例を区分して、貸主・借主の負担の範囲を示しています。

A :賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても、発生すると考えられるもの
B :賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの(明らかに通常の使用等による結果とは言えないもの)
A(+B):基本的にはAであるが、その後の手入れ等賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの
A(+G):基本的にはAであるが、建物価値を増大させる要素が含まれているもの
このうち、B及びA(+B)については賃借人に原状回復義務があるとしました。
国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」

つまり、原状回復義務・善管注意義務の項でも説明した通り、「借主が通常の生活を明らかに逸脱した破損や汚れを出してしまった場合や、部屋のメンテナンスを怠ったことで通常の生活を送る以上に部屋が損耗してしまった場合は借主の敷金で清算する」ということが決められています。
しかし、借主が精算しなくてはいけない場合でも、負担の割合が少なくなる例外もあります。

敷金で修繕しなければならいときにも負担は減らせる

借主の敷金から修繕する原状回復義務が発生したとしても、その負担が少なくなる場合があります。ポイントは「経過年数の考慮」です。

経過年数の考慮とは?

その物件に長く住んでいた場合、設備などは当然劣化していきます。その劣化に関する修繕費用を借主がすべて負担することになれば、平等ではありません。
上述したように、借主は月々の家賃から「通常の生活における損耗などの修繕費」をすでに支払ってもいるのです。
そこで、建物や設備の経過年数を考慮に入れて、借主の負担の割合を少なくする考え方がとられています。

6年住めばクロスなどの負担額は1円に?経過年数による負担割合

経過年数により、負担割合がどのくらい減るかについて、ガイドラインでは以下の図に示されています。
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ガイドラインでは「経過年数」が「入居年数」に置き換えられています。借主が何年その物件に住んだのかという入居年数のほうが、契約当事者にも、管理業者などにも明確でわかりやすいことから代替されているのです。
上記の図は、もちろん「善管注意義務を怠らない」との前提で年数が経過した場合の負担割合を示しています。一般的な引っ越しのサイクルである2年という入居年数において、入居直前に設備が新しいものと交換されていたとの条件で考えてみても、経年劣化に関する負担割合は、70%弱にまで下がるようです。入居時の設備の状況がもっと古かったり、住んでいる期間がもっと長ければ、負担割合はさらに下がります。

また、ガイドラインによると、経過年数等の考慮として、例えば壁紙、カーペット、クッションフロアなどは「6年で残存価値が1円となるような負担割合を算定する」としています。ただし、襖紙、障子紙や柱など、経過年数が考慮されないものもあるので注意が必要です。基本的には、「壁紙などは喫煙などで変色していても、6年以上住んでいれば経過年数が考慮され、借主の負担はほぼなくなる」と覚えておく程度で良いでしょう。

引っ越しの際には、自分の入居年数を考えて目安のパーセンテージを算出してみるのも、敷金トラブルに巻き込まれないようにするひとつのテクニックと言えます。

借主負担?貸主負担?ケース別にみる敷金返還

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それでは修繕費用が借主負担、貸主負担のどちらになるか。一般的なケース別にみてみましょう。

床(畳、フローリング、カーペットなど)

貸主負担になる例

  • フローリングのワックスがけ料金
    ワックスがけは通常の生活において必ず行うとは言えないので、貸主負担が妥当です。
  • 家具の設置による床、カーペットの凹み
    設置した跡など設置したことだけによる凹みや跡は通常の損耗とされるので、貸主負担が妥当です。
  • 日照などでの畳の変色、フローリングの色落ち
    日照は通常の生活では避けられないので、貸主負担が妥当です。
  • 構造欠陥による雨漏りなどで発生した変色
    構造上の欠陥は、借主には責任がないので貸主負担が妥当です。ただし、雨漏りを発見した時点でしっかりと伝えておかないと、通知義務を怠ったとみなされる場合があるので注意が必要です。

借主負担になる例

  • カーペットに飲み物などをこぼしたことによるシミやカビ
    飲み物をこぼしてしまうことは、通常の生活の範囲内のような気がしますが、その後そのままにしてしまってシミ・カビなどになってしまった場合は、借主負担になってしまいます。
  • 冷蔵庫下のサビ跡
    冷蔵庫に発生したサビが床に付着しても、簡単に掃除ができるくらいならば大丈夫です。ただし、サビを放置してしまって床に汚損を与えてしまった場合は、善管注意義務違反に該当する場合が多いと考えられます。
  • 引っ越し作業、家具の移動などで生じた傷など
    これは善管注意義務違反に該当してしまうので、借主負担となります。
  • 窓を開け放していて、吹き込んだ雨で畳やフローリングが色落ちした
    善管注意義務違反に該当してしまうので、借主負担となります。
  • 落書き等の故意による毀損
    言わずもがな、借主負担となります。

壁、天井(クロスなど)

貸主負担になる例

    • テレビ、冷蔵庫等の後ろの壁にできる黒ずみ(電気ヤケ)
      テレビ、冷蔵庫は生活必需品であるので、その使用の際にできる電気ヤケは通常の使用の範囲と考えられ、貸主負担が妥当です。
    • 壁に貼ったポスターや絵画の跡
      壁にポスターや絵画などを貼って生じる壁紙などの変色は、主に日照などの自然現象によるものなので、通常の生活の範囲内の損耗と考えられます。
    • クロスの変色
      日照などの自然現象によるものは、畳やフローリングと同様に、通常の生活で避けられないものであるので、貸主負担が妥当です。

借主負担になる例

  • 台所の油汚れ
    使用後に掃除をしないなどして、ススや油が付着している場合は、通常の使用による損耗を超える物と判断される場合が多くなります。
  • 結露を放置したことによるカビ、シミの拡大
    結露してしまうのは、建物の構造上の問題であることも多いです。ただし、結露が発生しているにもかかわらず、通知をせずに手入れを怠り、壁などを腐食させてしまったときには、借主負担となる場合が多いと考えられます。
  • タバコなどの臭いヤニ
    喫煙でクロスなどが変色したり、臭いが付着している場合は、通常の汚損を超えるものが多いと考えられます。喫煙が禁止された物件では、用法違反にあたってしまう場合もあるので、気をつけましょう。
  • 壁などの釘穴、ねじ穴
    重い物をかけるために穴を空け、下地ボードの張り替えが必要な程度のものは、借主負担であると考えられます。しかし画鋲くらいであれば、通常の使用の範囲内と考えられます。
  • 天井に直接つけた照明器具の跡
    入居時に設置されていた照明器具用コンセントを使用しなかった場合には、通常の使用による損耗を超えると判断されることが多いようです。

建具(襖、柱など)設備、その他 (鍵など)

貸主負担となるもの

  • 地震で破損したガラス
    自然災害による損傷は、借主による責任ではないと考えられるため、貸主負担となります。
  • 全体のハウスクリーニング
    借主が通常の清掃をしっかり行っている場合は、次の入居者確保のためのものであるとされるので、貸主負担となります。
  • エアコンの内部洗浄
    喫煙などによる臭いなどが付着していない限りは、必ず行うとまでは言い切れないので、貸主負担が妥当とされます。
  • キッチンやトイレの消毒
    消毒は日常の清掃と異なるものなので、貸主負担が妥当と考えられます。
  • 鍵の取り替え(破損、鍵紛失のない場合に限る)
    入居者が入れ替わるという物件管理上の問題なので、貸主負担が妥当です。
  • 設備機器の故障、使用不能
    機器の寿命が尽きたような経年変化による自然損耗は、借主には責任がないと考えられるため、貸主負担が妥当です。

借主負担となるもの

  • ペットによる柱の傷、臭い
    ペットが壁紙や柱を引っ掻いてできてしまった傷、臭いは借主負担となります。
    もちろん、ペット禁止の物件では、用法違反にあたるので注意が必要です。
  • 風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビなど
    使用期間中に、掃除や手入れをあまりせずに、汚損が酷くなってしまっている場合は、善管注意義務違反に該当するので、借主負担が妥当とされることが多いようです。
  • 鍵の紛失、破損による取り替え
    鍵の紛失や破損は、借主負担と判断される場合が多いと考えられます。
  • ガスコンロ置き場、換気扇などの油汚れ、ススなど
    掃除などを怠ってしまい、汚損が酷い場合には、善管注意義務違反にあたり、借主負担と判断されます。

敷金の返還交渉をする際は、これらのケースを目安にして、管理会社または大家さんと話し合うのが良いでしょう。

退去直前の大掃除で敷金を少しでも多く取り戻そう

 少しでも多く敷金に戻ってきて欲しい!そのために知っておくべき敷金の基礎知識
上記のようなケースからも、冒頭でお伝えした「敷金が多く返還されるコツは、普段の生活にある」ということがお分かりいただけたのではないでしょうか
故意の破損に注意するのはもちろん(善管注意義務)、雨漏りなどの構造欠陥を発見したら忘れずに連絡をする、普段からこまめに掃除をしておく、用法違反は行わない、などなど。いわゆる「通常の生活」を営むようにすれば、退去の際に敷金が多く返還されるかもしれません。

しかし、退去直前に大掃除などをするだけでも、敷金返還交渉の際に、大きな違いが出てくる可能性はあります。あまりに汚損してしまっている場合は難しいかもしれませんが、前述した借主負担になる項目を回避すべく、キッチンの油汚れをしっかりと取っておく、冷蔵庫下にサビなどをみつけたらなるべく取り除いておく、風呂・トイレなどの水回りの掃除をしておくなど、ポイントをしっかりとおさえた清掃を行っておくのが良いでしょう。

また、次の新しい物件に引っ越した際に使える豆知識として、引っ越した直後の写真を撮っておくのもオススメです。
ガイドラインもしっかりと読み込んでみてください。次回の退去時には、敷金をより多く返還してもらえるようになるかもしれません。何より、トラブルを避けやすくなるという点だけでも魅力的です。

過大な修繕費用の請求などのトラブルに巻き込まれてしまったら

「敷金が返ってくるどころか、敷金以上の請求をされた」
そんな借主の知識不足を突いたトラブルに見舞われてしまった場合、どのように対処すれば良いのでしょうか?

自分でもできる敷金トラブルの対処法

「おかしいな」と感じたら、まずは見積書の内訳を、ガイドラインを参考にしながらしっかりと見ていきましょう。
良くある問題として「○○の費用は借主が負担する」などといった特約を持ち出されるケースがありますが、消費者契約法に基づき、借主が一方的に不利になってしまう場合には特約が無効になることもあります。
また、見積書などに明細がない場合、貸主には具体的な根拠を明らかにする説明義務があるので、要求することも大事です。
もし、見積書の内訳がガイドラインの定義と食い違っていた場合には、ガイドラインを提示しながら敷金を返還してもらうように交渉を進めていきましょう。
それでも交渉が難航する場合には、内容証明郵便による返還請求や少額訴訟など、次のステージも視野にいれましょう。少額訴訟は60万円以下の裁判案件が対象となり、費用もそれほどかかりません。

専門家に相談して泣き寝入りを回避

「自分には詳しい知識も裁判を起こすような余裕もないから諦めよう」などと泣き寝入りする必要はありません。
敷金トラブルを抱えた方のために「国民生活センター」や「日本司法支援センター」または東京都行政書士会の「賃貸住宅問題相談センター」など、敷金トラブルの相談を受け付けてくれるたくさんの施設があります。
困った時には、ぜひこういった機関にご相談してみてください。

おわりに

敷金とは、あくまで担保として預けてあるお金なので、原則として「全額返還」されるべきものです。
もちろん、故意や過失による修繕については費用を支払わなければいけません。ただし、それ以外のものについては、ガイドラインをもとに見積書の内訳をしっかりと確認し、敷金返還交渉をしてみることで、取られ損を防ぐことができるでしょう。

「敷金返還交渉」というとなんとも仰々しい印象を受けますが、借主の当然の権利です。ただし、「全額返すのが当然だろ!」というスタンスで臨んでは、相手の態度も硬化してしまいます。肩の力を抜いて、対等な視点に立って、交渉をはじめてみましょう!

参考:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html

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