賃貸住宅を契約する際、必ず付きまとってくる「敷金」の問題。皆さんは、どのように対処していますか?
敷金は”返ってくるお金”だと聞いたことはあったけど、あまり返って来なかった。もしくは、もっとお金がかかってしまった。というケースをたまに耳にします。敷金に関わる諸作業は「退去時」に行うものと、後回しにしてしまいがちですが、1円でも多く取り戻すためには「入居前」・「入居時」からやっておきたいことがいくつかあります。
敷金についての基本的な知識は下記の記事でまとめていますので、こちらも合わせて読んでみてください。
少しでも多く敷金に戻ってきて欲しい!そのために知っておくべき敷金の基礎知識
1円でも多く敷金を取り戻すためにやっておきたい5つのこと
「預けているお金」なのだから、何もなければ返してもらうのは当然のことのように思えますが、そう上手くいかないのが実情のようです。ではどう対応をしていけば、滞りなく敷金を取り戻すことができるのでしょうか。
前提
- 本記事は、これで必ず「敷金返還」を受けられるというものではありません。
- 敷金を取り戻すために、最低限やっておきたいことを記載しておりますので参考までにご覧ください。
1. 契約書を入念にチェックする
まず一番にやっておくべきなのは「契約書の確認」です。
契約書は苦手な方も多いかと思いますが、これらをしっかりチェックすることが敷金を取り戻す重要なポイントになります。特にチェックしておきたい項目は「特約」という例外についてです。賃貸契約の原則は「故意・過失ではない”日常生活レベル”の摩耗や経年による劣化は、貸し主の負担」となっているのですが、一部を特約とすることで例外としているケースがあります。
例えば、”ハウスクリーニング代を敷金から使う”などの特約もあるようで、知らない内に「敷金を使って良い」という契約が結ばれてしまっていることも少なくありません。こういった不利な契約を結ばないために、チェックすることは欠かせないのです。
※借り主に不利な特約は無効にできる可能性もある
もし、借り主であるあなたと貸し主の賃貸契約に不利な「特約」があった場合、どう対処すれば良いのでしょうか。
国土交通省がまとめているガイドラインでは以下のように定義されています。
[1] 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
[2] 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
[3] 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
つまり、あなたにとってあまりに不利な契約の場合、無効にすることも可能なのです。しかし、契約書に押印してしまうと”それら”を認めてしまったことになります。
そのため契約書の入念な確認が必須であり、もし不利な特約があった場合は「外してもらえないか交渉する」あるいは「契約しない」のが無難です。
2. 「通常損耗」と「毀損」の線引きを理解しておく
上記”1.”で記載した「故意・過失ではない”日常生活レベル”の摩耗や経年による劣化」を賃貸契約では「通常損耗(つうじょうそんもう)」、故意・過失の場合は「毀損(きそん)」と定義します。前述の通り通常損耗の場合、借り主に負担はありませんが線引きが複雑なため確認しておく必要はあるでしょう。
畳の変色やフローリングの色落ち
日照が原因の変色は、借り主に修繕義務はありません。
しかし、「不注意で雨が吹き込んだことで色落ちした」、「飲み物をこぼしたけど放置してカビが生えた」、「キャスター付きのイスで傷をつけてしまった」などは故意・過失と見なされる可能性があります。
家具設置による床・カーペットなどのへこみなど
通常利用をしていた場合のへこみや跡は問題ありませんが、「引っ越し作業などで付いてしまった傷」、「乱暴に扱ったが故にできた傷・跡」は故意・過失と見なされる可能性があります。
そのほかの事例
タバコのヤニ、テレビ・冷蔵庫の設置による黒ずみ、壁に貼ったポスター・画鋲やピンの穴、エアコン設置のビス穴、台所の油汚れなどは、通常損耗の範囲内に含まれますが、「重量物をかけるために設置したインテリアのネジ穴」などは故意・過失と見なされる可能性があります。
国土交通省『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』の損耗・毀損の事例区分(リンク)
URL:http://www.tvt.ne.jp/~ariki/genzyoukaihuku/zireikubun.htm
3. 貸し主の人柄を確認
入居前・入居時にチェックしておくべき項目は上記だけではありません。貸し主がどんなタイプの人なのかも見ておきましょう。
- A. ルールを理解し、しっかり守る
- B. 借り主が主張すると対応してくれる
- C. 借り主が主張するとうやむやにしようとする
- D. 借り主が主張すると開き直ったり、無視する
大きく大別すると、このようなタイプが多いです。相手も人間なので一概には言えませんし、短い時間でどんな人か判断するのは困難ですが
「契約相手は誠実か否か」
その意識を常に持っておくことは、ムダではありません。色々と疑問に思うことや不安に思うことを投げかけてみて、どのような返答がもらえるか観察してみましょう。
4. 入居時に部屋をチェックする
「通常損耗」と「毀損」の前提を共有し、さらに貸し主の人柄を把握するため必ず行っていただきたいことがあります。それが「入居時の部屋チェック」です。
以下にチェックポイントを記載したので、参考にしてください。
入居時のチェックポイント
- 壁や床、天井などの汚れ・傷を確認(網戸やふすまも含む)
- 設備(スイッチ、コンセント、照明、換気扇、エアコンなど)は問題なく使えるか
- 玄関ドアを始めとする扉などは正常に開け閉めできるか
- 水やお湯は問題なく出るか/配水管のつまりなどはないか、匂いはないか
- お風呂や洗面所に、汚れなどはないか
これらは貸し主同席の下で確認するのが最善。契約の前提としてお互いがスタート地点を共有することは、トラブルを避ける有効な手段です。また、敷金を取り戻すために”一緒に確認した事実”も武器になります。それでも不安だという方は、写真を撮っておく、メモを残しておく、会話を録音しておくことも有用です。
5. 貸し主に必ず連絡・相談をする
敷金トラブルは「貸し主に問題がある」ケースももちろんありますが、それと同じくらい「借り主に問題がある」こともあり得ます。敷金を滞りなく取り戻すためには貸し主に相談したり、何かあったときは連絡することで
- 契約的に問題ないか判断を仰ぐ
- 言質(あとで証拠となるような言葉)を取っておく
ことが求められます。この点、気をつけてください。
まとめ
「1円でも多く敷金を取り戻すためにやっておきたい5つの方法」は以上です。
簡単に内容をまとめると
- 契約書をしっかり確認し、不利な項目があれば交渉する
- 「通常損耗」と「毀損」の線引きを確認しておく
- 大家さんのタイプを確認し、問題がありそうなら契約を避ける
- 入居時の”部屋の状態”を貸し主と共有する
- 何か不安に思うことは貸し主に連絡、相談する
敷金トラブルの原因となる「悪意ある貸し主」が一部存在することは事実です。そのため、「借り主」が敷金を取り戻すため、契約書の確認や入居時のチェックなどを行わなければなりません。だからと言って、「借り主」は絶対的な存在ではありません。
我々、借り主は”その部屋を借りているだけ”だという立場を認識し、定められたルールに則ることが大前提。敷金が戻らないというケースには、双方の問題が絡んでいることも往々にしてあるからです。
入居時に確認を徹底しながらも、ルールはしっかり守り、何か不安に思うことは貸し主に確認を取る。そんな運用を心がけて、1円でも多く敷金を取り戻しましょう。それでは。